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(2018/11/26)
宮崎県木材利用技術センターの森田氏より,昨年度から実施しているナイス(株)との共同研究「宮崎県産スギの特徴~ObiREDの試験結果~」について講演がありました。前半はスギの一般的な特徴について,後半はObiREDの試験結果についてご説明いただきました。ここでは,そのパワーポイントをベースにし,その内容についてナイス(株)が分かりやすく解説します!
飫肥杉は歴史的に,建物のみならず,弁甲材(船用材)や木橋の材料として多く利用されてきました。これは昔から,飫肥杉が油分を多く含み,優れた耐朽性を有し,屋外での使用にも適した材料であると認識されていたためです。
例えば,大阪で平成11年に復元された菱(ひ)垣(がき)廻船(かいせん)「浪華(なにわ)丸(まる)」は,江戸時代における大阪繁栄の象徴的存在である千石船を,材料や工法まで極力忠実に復元したものです。この中で,一般的な杉とは別に,“弁甲杉”として飫肥杉が使用されています。
(【出典】なにわの海の時空館 復元された菱垣廻船「浪華丸」)
(宮崎県日南市 花峯橋:1929年架設,木造車道橋として国の登録有形文化財)
(宮崎県日南市 花峯橋:昭和10年ごろ 【出典】日南市資料)
(宮崎県日南市 見法寺橋:昭和6年ごろ 【出典】日南市資料)
(宮崎県日南市 曙橋:昭和39年ごろ 【出典】日南市資料)
少子高齢化などの影響で,今後,国内住宅着工数は大幅に減少することが予想されており,それに伴い,住宅向けの木材需要も大きく減少するものと考えられます。そのような中で,木材の新たな需要拡大を図るため,非住宅や外構材への利用,さらには海外輸出といった取り組みを官民挙げて進めています。
例えば,宮崎県内で近年建築された日向市役所や小林市役所は,いずれも基本構造は
RC造ですが,木造と見間違うほど内装材や外壁材,ウッドデッキ等で多くの木材が使用されています。
(日向市役所(2018年完成))
(小林市役所(2017年完成))
その秘密は飫肥杉の心材(赤身)にあります。スギの心材に含まれる成分は,耐朽性や耐蟻性に効果があり,害虫(ゴキブリ,ダニ)に対する忌避効果も有すると言われています。
平成29年度にセンターで行った実験の結果では,飫肥杉心材の抽出成分の回収率は他地域のスギの2~3倍あることが明らかになっています。この抽出成分の量の違いが,飫肥杉の耐朽性や耐蟻性の優位性につながっています。
抽出成分が含まれる心材部分
東﨑無我:平成29年度センター業務報告書
地域別の心材抽出成分の回収率
スギの強度は低いイメージがありますが,実際はどうなのでしょうか?
先ほども紹介しましたが,木材中心の赤っぽい部分を心材(赤身),外側の白い部分を辺材(白太)と呼びます。どんな木材でも心材と辺材はありますが,特にスギは明瞭で,赤身部分が明確で分かりやすいという特徴があります。その心材と辺材にはそれぞれ特徴があります。
辺材(白太)
■根からの水の通り道で,水分が多い
■強度が高い
心材(赤身)
■水分は少ないが,乾燥しにくい (ただし黒心は水分多い)
■比重が高め (髄付近)
■抽出成分(精油)が多い
それでは,実際に流通している木材の強度はどうなっているのでしょうか?
この表は,全国で収集された実大材の曲げ強度試験データと無等級材の基準強度を示しています。ここで無等級材の基準強度は,建設省告示1452号で規定されており,小試験体による強度試験結果を元に定められたと言われています。これに対し実大材は,一般的な住宅で使用されている105mm角や120mm角といった柱や,材せいが240mmや300mmといった梁となります。
表を見ると,ベイマツやベイツガは基準強度を下回っている材料が多く流通していることが分かります。一方,スギやヒノキは基準強度を大きく上回っており,ベイマツやベイツガより高い値(5%下限値)を示しています。すなわち,基準強度は低く設定されていますが,一般に流通しているスギは決して強度が低いわけではありません。
実際,宮崎県には地元のスギを使用した世界最大級の木造建築物があります。例えば木の花ドームは,単層ドームでは日本一の規模を誇りますし,かりこぼうず大橋は,木造の橋長として世界最大級です。すなわち,このような木造建築物が実現できるほどスギは十分強い木材であることが分かります。
■「ObiRED」とは!?
飫肥杉の赤身部分だけを選んで製材し,以下のような特別な方法で乾燥・選別したものを「ObiRED」と呼んでいます。
木材を使う際には,通常,狂いを抑えるため乾燥が必要となりますが,高温乾燥を行うと抽出成分が通常の半分程度まで減少してしまいます。だからといって十分な乾燥が行われないと,使用していくうちに水分が抜け,木材が変形してしまいます。
そこでナイス(株)は,抽出成分を損なわずにしっかり乾燥させる技術を開発しました。この技術も用いて実現した「ObiRED」は,この独自の乾燥技術により,抽出成分を多く含んでいます。
また,飫肥杉は生節が多いと言われますが,木取りが最適にできていないと流れ節や髄を含んでしまうため,見た目にも良くない製品になってしまいます。ObiREDではそういった欠点が出ないようにしっかりと注意を払いながら製材・選別をしています。すなわち,「ObiRED」は飫肥杉赤身の中でも選りすぐりのエリートと言っても過言ではありません!
さらに,ナイス(株)では「ObiRED」の欠点となりうる密度の低さを改善し,大幅な性能の向上を実現するため,独自の表層圧密技術を用いた「Gywood」を開発しています。
■飫肥杉赤身材 ObiREDの試験結果
ObiREDの性能を検証するために,宮崎県木材技術センターと共同で様々な試験を行いました。ここで,それらの試験の一部を紹介したいと思います。
以下の試験で,7種類の材料に対して試験を行いました。
<ObiRED試験体>飫肥杉赤身材をベースにした試験体
A ― ObiRED (無処理材)
A’ ― ObiRED+AZN注入材
B ― ObiRED+表層圧密デッキ材Gywood
B’ ― ObiRED+表層圧密デッキ材Gywood+AZN注入材
C ― ObiRED+全体圧密材
<比較材>既存の外構材
W ― ベイスギ
T1 ― スギ熱処理1
T2 ― スギ熱処理2
JISに従って表面硬さの評価を行った結果,ObiREDは比較材であるベイスギやスギ熱処理材と同等以上の表面硬さを有することが分かりました。
また,表層圧密することにより表面硬さが大きく向上することも明らかになりました。
さらには,AZN処理による影響がないことも明らかとなりました。これは以後の割裂抵抗,木ねじ保持力についても同様でした。
この表面の硬さは他の木材と比較するとどうなるでしょうか?
試験体B,すなわちObiRED+Gywoodに関して他樹種と比較すると,ヒノキと同程度の密度でありながら,ミズナラと同程度の表面硬さであることが分かります。一般的に,密度と表面硬さは正の相関関係にありますが,針葉樹の軽いという利点を残しつつ,表層だけは広葉樹並みの表面硬さが得られていると言えます。つまり,ObiRED+Gywoodにより,軽くて強い材料が実現できています。
JISに従って割裂抵抗の評価を行いました。割裂抵抗は,主にボルト接合を想定した場合の木材の割れにくさを表します。
板目面の場合,ObiREDは比較材を大きく上回る割裂抵抗を示しました。また,割裂抵抗は圧密するほど大きくなることが明らかになりましたが,柾目面ほどの効果は得られませんでした。
柾目面の場合,ObiREDは比較材のスギ熱処理材(T1,T2)を大きく上回る割裂抵抗を示しました。また,圧密処理の効果が大きく,割裂抵抗が大きく向上しました。
ObiREDは基本的に板目で木取りするため,例えばウッドデッキとしてボルト留めする場合は,柾目面での割れにくさが求められます。柾目面の割裂抵抗の結果から,ObiREDはスギ熱処理材を上回る割裂抵抗を有し,さらには,圧密するほど割れにくい性質を有していると言えます。
また,ObiREDやObiRED+Gywoodはルーバーで使用も想定され,その際にはボルト留めされます。既にスギ熱処理材はルーバーとして多く使用されていますが,実用的な観点から考えると,大きな負荷がかかった際の滑落の危険性はObiREDやObiRED+Gywoodの方がより小さくなると考えられ,安全な材料であると言えます。
木ねじ保持力とは,木材から木ねじを抜くときの抜けにくさを表しています。近年,大型の台風がよく日本を襲いますが,その時,物が飛んで来て怪我をしたという話を耳にします。少々の風でも飛ばないようにしっかり固定する必要があり,その際に木ねじ保持力が重要な指標となります。
スギは木ねじが抜けやすいというイメージがありますが,実際に試験を行うとObiREDはベイスギと同等で,スギ熱処理材より高い木ねじ保持力を有することが分かりました。さらには,圧密処理するほど木ねじの保持力は大きく向上することが明らかとなりました。
■結論
・既存の外構材と比べて,飫肥杉赤身材ObiREDは同等以上の力学的性質を有しています。
・ObiREDを圧密することで,力学的性質は大きく向上します。
・AZN処理(防腐・防蟻処理)による影響はありません。
・スギは決して弱くないことをデータが示しています。
・“赤身を生かす”使い方が重要です。
■ナイスの提案
スギの中でも赤身を,赤身の中でも飫肥杉赤身を,飫肥杉赤身の中でもObiREDを使い,用途に応じてAZNや表層圧密を選択していただくことで,より性能の向上が期待できます。